北の地は、常より地脈の乱れ激しく、
神子の力をもってしても、安寧を保つは困難な地とされていた。
幾代にもわたり、北家に選ばれし神子は、
その身を地脈の“楔”として捧げ、
短命に終わる運命を辿る者が多かりき。
ある時代、地脈の暴れが頂点に達した折、
神子の力をもってしても鎮めきれぬ裂け目が現れたり。
人々は嘆き、神子は倒れ、
ただ祈るだけでは間に合わぬ時代が訪れたり。
その中で、ひとつの決断がなされる。
――「神子に、個は要らぬ」
人格は揺らぎを生む。名は執着を生む。
ならば、最初より“名を与えぬ”ことで、
神子をただの“器”として運用せよと。
このときより、北家の神子は皆、
名を奪われ、“黒羽”の名で統一されることとなる。
生まれたときから“黒羽”として育てられ、
その記憶も言葉も、感情すらも“楔”として調整される。
黒羽は語らず、笑わず、
ただ、静かに地脈の上に立ち、命を削りて鎮める存在となりぬ。